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熊谷市文化財日記

歴史 地域

旅の記憶

野原文殊寺芭蕉塚に建つ芭蕉翁塚の碑

■時代を超えて ―移り行くものと人―

旅の記憶の連載も十数話をへて、ネタ切れになりそうですが、牛の涎のように途切れそうで途切れないものです、牛の歩みのようにゆったりしっかり進めたいと念じています。
旅人といえば松尾芭蕉、芭蕉は3月の末、片雲の風に誘われたかのように旅立ちの日を迎えます。旧暦のことですから現在では5月の終わりころになるでしょうか(この年は閏月が加わったことから現在とは2ヶ月のずれが生じた)。
-奥の細道 旅たちの初句は「草の戸も 住替わる代ぞ ひなの家」とあります。
「ひなの家」は三月節句によりひな人形を飾った家というよりの、雛人形を飾るような女児の住む家になったという意味とされています。ただ「ひなの家」は春の季語ではあります。
今年の春はウイルス蔓延のため陰鬱な幕開けとなりましたが、気持ちは豊かにありたいものです。五道庵竹二坊は芭蕉の遺徳を慕って、野原文殊寺に芭蕉塚を築き碑も建てました。五道庵は熊谷市の隣り、滑川町福田の権田氏の人で本業の医師の他に俳諧・国学・書道・茶道の五つの道に秀でたことから五道庵の名を藤堂候(伊賀藩公)から受けたといい、芭蕉の伝記をまとめた「芭蕉翁正伝」を著わしています。
芭蕉以前、古代以来「春」の季節をとても重要な時期だと考えていました。草木は芽を出し葉を茂らせ棒木の山は緑の衣を装います。動物たちは子を産み育て、生きる仕事を始めます。自然が春を開始点としていると感じる日本人も、耕し植え育てる農業社会の循環の中に春を出発点としていました。旅により多くの地域を巡ることで芭蕉はこの生々流転する人や風土の姿を直に見たかったのだろうと思います。その思いは創られた多くの俳句に示されていると思います。

春は循環する自然のはじまり、人の暮らしの開始点とする感性は現在も余り逸脱していないように思います。ただ今年の春は厳しい試練とともに始まりました。

【参考図書】小林甲子男1991「五道庵竹二坊」『埼玉俳諧史の人びと』さきたま出版会

■旅の記憶のスポット写真

「芭蕉翁塚」「文化十三年(1816)十月十二日 五道庵建」
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背面に芭蕉の略伝と建碑の理由が書かれている。
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■江南文化財センター

住所 熊谷市千代329番地
開館時間 午前9時~午後5時
休館日 土曜日・日曜日・祝日・年末年始
お問い合わせ 048-536-5062(熊谷市立江南文化財センター)
ホームページ 江南文化センター「熊谷デジタルミュージアム」へはこちらからどうぞ。

作成日:2021/06/02 取材記者:江南文化財センター