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熊谷・軽井沢・プラハ

地域 歴史 ~2023年迄掲載

第1回 熊谷の多様な暮らしと文化―d design travel ワークショップ

■コーナー紹介

【熊谷学ラボラトリー ~歴史と文化と芸術と哲学と~】
熊谷学ラボラトリーは、熊谷の歴史や芸術文化に着目し、古今東西の芸術、哲学、文学などと比較、調査研究を進めながら「熊谷学」を構成することを目的とするコミュニティです。
(哲学・美術史研究者 山下祐樹)

■第1回 熊谷の多様な暮らしと文化―d design travel ワークショップ

2018年、熊谷の新たな観光ガイド「d design travel」を作る前に、熊谷を知ることから始めよう。市民編集部のワークショップに合わせて3回の講座を開催し、筆者は熊谷の歴史や自然、芸術文化、産業などのテーマを担当し、熊谷らしさとは何か考える時間を共有した。
熊谷を学ぶ。そのプロローグでは地名の語源に着目した。一説には荒川の曲がりくねった「曲谷(くまかや)」の地に由来するとされ、川との深い関わりを示している。古くから熊谷の自然を特徴付ける川について、俳人の故・金子兜太氏は「利根川と荒川の間雷遊ぶ」と詠み、大河が育んだ熊谷の風景と個性を描き出している。
熊谷には自然環境の恩恵を受けながら、暮らしや郷土の文化に根ざした多様なアートやデザインが数多く存在する。国宝「歓喜院聖天堂」をはじめとする社寺建築、仏像や石造物、埴輪や土器の造形美、水流を生かした工芸品「熊谷染」、世界に名を馳せた生糸製品。その他、名勝「星溪園」の作庭、熊谷うちわ祭の豪華な山車屋台、築かれた熊谷桜堤の景観、江南地域の「ため池」や谷津田に見る土木遺産、更に熊谷産野菜や小麦を利用した料理の盛り付けやレシピなどには、熊谷独自の美意識やデザインが織り込められている。

d design travel 特別号 熊谷 2018年6月刊行

熊谷の長い歴史を彩る文化の多くは、熊谷人同士の結束力と、高度で繊細な技術力が融合して花開いた。典型例として、技巧派の名工たちが協力し完成させた極彩色の建造物群や、地域の「民藝」文化として職人たちが連携し型紙と染色の美と技を注ぎ込んだ熊谷染、宿場町の民衆が結集し祭礼の原点を確立した熊谷うちわ祭などがある。また、近代化の中で、養蚕や麦作をはじめ多くの先覚者が熊谷の地理や自然を生かした方法を見出し、人々の生活向上のために革新的な実践を進めてきた。これは熊谷人による熊谷らしさを探求する旅の歴史でもあった。
このような営みは、ラグビータウン熊谷でよく耳にする言葉を連想させる。「一人は皆のために、皆は一人のために」。ポジションごとの役割を意識し、課題を克服しながら一体となり、目標に向けて努力を重ねる。個の力を存分に発揮し、全体の調和を図る。まさに歓喜院聖天堂の建立とラグビーの精神は共通する部分があるように思える。

時代を超えて引き継がれる熊谷人のスクラムが、多様な暮らしと色彩豊かな文化を作り上げ、それぞれに価値を与えてきた。新たに完成したガイドは、その価値に光を当て、熊谷らしいロングライフデザインとは何か問い続けている。

◆観光ガイド「d design travel 特別号 熊谷」は2018年6月に刊行。
 この文章は、同6月5日付『埼玉新聞』「市民編集部 熊谷らしい観光ガイド」及び、
 山下祐樹『青鮫は来ているのか―金子兜太俳句の構想と主題―』終章附論として掲載された。

■第1回 熊谷の多様な暮らしと文化―d design travel ワークショップの詳細情報

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作成日:2019/08/02 取材記者:哲学・美術史研究者 山下祐樹