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熊谷・軽井沢・プラハ

地域 歴史 ~2023年迄掲載

第14回 名勝「星溪園」リトグラフ展 

東京藝術大学・ものつくり大学の美術史講座のリモート解説

~ コーナー名変更のお知らせ ~
熊谷ラボラトリーは今回からコーナー名を「熊谷・軽井沢・プラハ」に変更し、
幅広く文化芸術をテーマに掲載していくことになりました。

■名勝「星溪園」リトグラフ展 ― 安井曾太郎からベートーヴェンへ ―

2020年9月から、熊谷市名勝「星溪園」(熊谷市鎌倉町)の「松風庵」で、国内外のリトグラフ作品を月替わりで展示する小品展を企画し、開催している。
リトグラフは「平版画」と称され、画家が描いた油彩などを金属版に写し、数多く刷り上げる方法で、20世紀には欧米の絵画作品を広く周知させるために流行した。
企画展では松風庵の玄関にある小ギャラリーを使用し、規模の小さいリトグラフ作品を毎月1作品ずつ展示替えしている。

安井曾太郎「奥入瀬」(リトグラフ)

初回に展示した作品は、明治時代から昭和時代にかけて活躍した画家・安井曾太郎(1888年-1955年)が描いた「奥入瀬」で、小品ながら、水流の臨場感が伝わる名作と評価できる。
今後、フランスの詩人で画家のジャン・コクトー(1889年-1963年)、多くの風景画を残したベルナール ガントナー、静物画の評価が高いレイモン・プーレなど欧米の現代画家作品をはじめ、埼玉を拠点に中央画壇で活躍した小松崎邦雄などの作品を展示する。また、リトグラフに限らず彫刻家・北村西望や建築家・安藤忠雄の直筆画なども公開する予定で準備を進めている。


今回の企画展はスイスの都市グラーツにある個人コレクションが発端となっている。このコレクションは、19世紀にスイスとイタリアで活躍したルイージ・キアリバ(1842年-1914年)の親族が有していた作品群で、2018年にその一部が財産分与として日本国内に移管された。現在、この美術品は「グラーツコレクション」と命名され、国内での絵画の普及啓発に活用されている。

展示するリトグラフの作品群

2019年の冬、星溪園を訪れた同コレクションの日本法人関係者から、和の空間の中でリトグラフ作品を展示したいとの要望があり企画された。コロナ禍により時期が延期となり、内容も小規模になったが、多様な作品を月替わりで展示する方法で開催されることになった。12月からは、コレクションの祖となるキアリバが描いた人物画のリトグラフ作品を展示する。
フランスやスイスなどのリトグラフ作品に着目できる貴重な機会であり、日本庭園とともに美術品を味わい、心の癒しになってほしいと考えている。
また、2020年のベートーヴェン生誕250周年を記念し、リトグラフ作品「交響曲第3番」を2021年3月末まで特別展示している。

C・H・ゴバンズ「ベートーヴェン交響曲
第3番―ハイリゲンシュタット」

作品は1960年代にオーストリア出身の画家C・H・ゴバンズが制作した。ベートーヴェンが居住したウイーン郊外のハイリゲンシュタットの街並みが描かれ、合わせて交響曲第3番の楽譜が記されている。小品1点の展示ではあるが、ベートーヴェンが住んだ街並みの雰囲気を感じることができる。
この街は、ベートーヴェンが32歳頃に「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた場所としても知られる。遺書とはいえ、耳の難聴が悪くなり、再起不能として絶望したベートーヴェンが自らの命を絶とうとしたが、「音楽が、芸術が、私を救ってくれた。私の中にある限りの芸術を表現せずして、私は死を受け止めることができない」と記した決意書にも見える一文で、その後の音楽的な飛躍の原点になったとも考えられている。ベートーヴェンはこの遺書を記した後、「傑作の森」と呼ばれる時期に入り、絵のテーマとなった交響曲第3番などを作曲している。

「ベートーヴェン交響曲第3番」の解説風景

交響曲第3番は「英雄」「エロイカ」という別称があり、当時のフランス革命後の共和国の基礎を築いたナポレオン・ボナパルトに対する敬意を表現し、献呈しようとしたと伝わるが、ナポリタンが皇帝戴冠したことに怒りを覚えたベートーヴェンは献呈を取り消し、人類における「英雄」の人間像そのものを表現したものという解釈がある。
リトグラフ展は2021年8月までの開催を予定。
ギャラリーの見学時間は9時~16時まで。入場無料。
休園日は毎週月曜日(月曜が祝日の場合は翌平日)。
展示替え等の詳細は江南文化財センターまで。
(問合せ:江南文化財センター 048-536-5062)

■第14回 名勝「星溪園」リトグラフ展 の詳細情報

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作成日:2021/01/12 取材記者:哲学・美術史研究者 山下祐樹