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ガラス工房便り

アート 趣味

第1回 わがダル・ド・ヴェール史

チェスラフ・ズベールの作品

■1994年

ガラスの魅力は?と問われれば、私は光の透過性をあげたい。ガラスに射し込んだ光は吸収され、透過し、反射し、屈折し、ときには干渉して、めくるめく変化を生み出します。
その美しさを目の当たりにしたのは、庭園美術館でのチェスラフ・ズベールの作品。ズベールは硬質ガラスの塊をハンマーで打ち砕き、その偶然に出来た形を生かしながら、鮮やかな色彩を施した作品で知られる現代作家。その時は名前も知らなかったのですが、作品を透かして庭の緑が見えた。というより作品の中に風景が閉じ込められているように見えました。それは作品のテーマとかメッセージとは関わりなく、ただただ美しかった。その衝撃によって「私もこういうものが作りたい!」とガラスの道に誘い込まれることになります。

■2000年

幸せをよぶシンフォニー彫刻

ニキ・ド・サンファルの作品が見たくて箱根の彫刻の森美術館に行った折、たまたま「幸せをよぶシンフォニー彫刻」に出会います。円筒形の建物は目立つものではありませんが、内部に一歩足を踏み入れると、そこは光の乱舞。作者はガブリエル・ロワール。はじめて聞く名前でしたが、ダル・ド・ヴェールの作品であることはすぐ分かりました。
ダル・ド・ヴェールとは、厚さ2~3㎝の超厚の色ガラスをハンマーで打ち割ってパーツをつくり、さらにハツリを加えて光が複雑に拡散するようにしてから、モザイクのように並べ、その間をセメントや砂を混ぜた樹脂を流し込んで固めるというステンドグラスの一技法です。

ハツリ

第二次大戦後のフランスで盛んに用いられました。
ダルについては、ガラス学校時代に見たことがあったものの、その時はさほど魅力も感じなかったのですが、これだけのスケールともなると、エネルギッシュな美しさに圧倒されました。

■2017 年

宮城学院礼拝堂のロワールの作品

知合いの設計士の方から「こんなの作れる?」と、一枚の写真を見せられました。それはダル技法によるパネルで、こういう感じのものをオーディオルームの窓に取り付けたいという話。さあ、どうする? 経験はないし、道具もない。はたしてできるのかと自問して、「これはできません。でも他の方法なら」とひとまず答え、あとで恩師に相談したところ、「できるんちゃう?」と、こともなげに言っていただいたおかげで、挑戦してみようと心が決まりました。

ロワールの作品の部分

まずはボルテージをあげるために、仙台の宮城学院女子大学の礼拝堂にあるというロワールの作品を見ておきたいと思いました。一般公開はしていないけれど、事情を説明すると快く承知してくださり、夏休み期間の誰もいない礼拝堂で、細部に至るまで、心ゆくまで見ることができました。
それは一般的なステンドグラスよりも立体感があり、荒々しいガラスの凹凸が複雑な光と影を放ち、繊細かつ躍動感あふれるものでした。にもかかわらず、荘厳さは失っていない。そうか、これがダルなのか! 間近でみれば砕かれたガラスブロックなのに、距離をおくと、エネルギーに満ち溢れた姿が見えてくる。まるで等伯の松林図のようです。叩きつけたような粗い
                      筆致が、少し離れてみると朝霧の中に松林として浮かびあがっ
                      てくるような。

道具については、御徒町の岡安鋼材で揃えました。失礼ながら下町のおっちゃんが、実は彫刻の大家たちと知合いで、ガラスの扱いについて有益な情報をいただきました。
しかしダルに使う超厚のガラスを割るのは大変な作業で、いくら叩いてもヒビひとつ入らず、思い切ってハンマーを打ち下ろすと木っ端微塵! いったいどのくらいの材料をムダにしたことか。それでもなんとか「地層」と題した作品が完成。ダル作品の機会を与えてくれた施主様には感謝あるのみです。



ダル1号作品「地層」

■2020 年



ダル2号作品「融合」


ダルの1号作品「地層」の写真をみて、2020 年、鹿児島のレストラン「ドン・ジャッポーネ」のオーナーからダルの注文をいただきました。こんどは迷うことなく「是非やらせてください」と作り上げたのが「融合」。

テーマは和食とイタリアンの融合。左の茶系の半円を「和」に、右のグリーン系の半円を「イタリアン」に見立て、それが交わる部分にはオーナーの情熱を赤色で表現。左側に道しるべとなる北斗七星を配し、右上の青はシチリアの海と空のイメージ、というふうに、さまざまな思いを込め、さらに桜島で採取した火山灰を樹脂に練り込みました。

はじめてのダル作品は不安と試行錯誤の日々でしたが、2作目ともなると、たとえ時間はかかっても完成できるはずと心に余裕が生まれました。なによりも進歩したのはハンマーコントロールで、ねらった箇所にハンマーを打ち下ろし、きれいなハツリができると心が浮き立ってきます。この高揚感! で、ふと思ったのは、スケールこそ違え、ズベールが大ハンマーを打ち下ろしてガラスを砕くときも、きっとこの高揚感があったのではないか。私をガラスの道に誘い込んだズベール作品は、もしかするとダル・ド・ヴェールへ通じる道ではなかったのかと思えてきます。
藤森照信氏は自らの作品を「野蛮ギャルド」と言っていますが、破壊することで創造するというダル・ド・ヴェール技法も「野蛮ギャルド」と言えるのではないか。そしてどうやらこの「野蛮ギャルド」が自分には向いているようです。と考えるとスタート地点のズベール作品は、「地層」「融合」につながっていたということを感じます。2作目の機会をいただいた施主様に感謝するとともに、こうなると、3作目が作りたい!

■第1回 わがダル・ド・ヴェール史のスポット写真

幸せをよぶシンフォニー彫刻
ハツリ
宮城学院礼拝堂のロワールの作品
ロワール作品の部分
「融合」の部分1
「融合」の部分2

■各務ガラス工房

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作成日:2021/04/26 取材記者:各務ガラス工房/各務ひとみ